チャイムが鳴った。
真夜中という時間に訪れるのは親しい奴か強盗のどちらかだと思ったので
恐る恐る玄関に向かい、小さな覗き窓からドアの向こう側をうかがってみた。

小さく歪んだ姿が彼だとわかり、少し泣きそうになる。
ドアを開けると、案の定ケンカしたから泊めてやなんて台詞。
彼がここに来る時はこういう時だということをわかっていて家に入れてしまう。
どこかで、
彼は自分に会いに来てくれたのではないか
彼は自分を必要としているのではないか
もしかして、
とうとう彼は自分のものになってくれるのではないか
そんな浅はかな思いを幾つも抱きながらいつも彼を迎え入れている。
そんなこと、あるのだろうか。

1Kという狭い部屋の中に彼を招き入れる。
座布団を薦めるが、
「そんな気ぃ使わんでええよ、君は優しすぎる」
なんて言う。
好きな人に優しくして何がいけないのだろうか。
彼はそのまま床に横になり、
床に転がっているCDをいくつか漁り、聞き出した。
「この曲エエね」
あまり有名ではないインディーズのCDの感想を述べたあと、
彼は居心地良さそうにゴロゴロと布団のところまで転がっていった。
その光景を横目に、彼が来るまで食べていた夜食を片付けようとキッチンへ足を運びつつ
風呂には入らんの? と聴くと、
「今日はえらい気つこてるね」
急に声が近くで聞こえて振り向こうとしたら
後ろから腕が伸びてきて身体に巻きついた。
突然の事に驚きながらも、
触れている場所からじわじわと身体が熱を帯びていくようで
眩暈がしてくる。
「…………もう、あかんかもなぁ。。。」
肩口で小さく呟く声が聞こえた。
弱く、擦れた声。
泣いているのかもしれない。
一体どうしたのだろう。
彼はいつも自信に溢れていたのに。
あの子を何よりも大事にしていたのに。
もしかして……いやいや。ああでも、もしかして、、
枯れ果てたはずの浅ましい期待が膨れ上がってくる。
とうとう、とうとうこの時がきたのではないだろうか。
巻きつく腕は強く締められ、身体の熱は上昇していく一方で。
ようやく開いた小さな隙間に、自分が手を伸ばし、
隙間を大きく開いて引き裂いて離れさせるチャンスかもしれない。

膨れ上がる想いはもうとめられそうに無かった。
彼を手に入れるためには何だってしよう。
何だってしよう。

自分の心がどんどん汚くなっていくのを感じながら、
彼のこころはきれいであって欲しいと願った。
自分のこころを汚して殺しても、
彼のこころはきれいでいさせようと誓った。

身体は熱を孕んでいる。
                                            
                                            
                                         

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